あいさつは一仕事 (朝日文庫)

ほぼ全部が、自ら原稿を用意して本番に臨んだ、という丸谷さんの挨拶文集。どれもこれも、心のこもった見事な挨拶ばかりで、エッセイの名手らしい、大層ハイレベルな内容になっている、と思う。巻末には和田誠さんとの「挨拶」をめぐる対談も入っていて、ここでようやく、丸谷さんが、挨拶の会場に大抵原稿を携えていったことが明示されている。丸谷さんはそうした折、会場を眺め渡した後、おもむろに持参の原稿を広げ、棒読みされたのだろうか。紹介されている挨拶には、丸谷さんが紙面改革をリードした毎日新聞書評欄「今週の本棚」にまつわるものが何本かあり、それぞれ面白かったが、同時に、それらを含む挨拶文の編さんを進め、単行本および文庫として刊行された朝日新聞出版の意外な度量の大きさにも感じ入った。