2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ

色々とツッコミどころはあるのだけど、まず、・自分の過去と醜態を晒すことで、読者に「あなたも失敗してもいいんだよ」とは言うが、著者には、いくら失敗したところで、泣きつけば金も仕事先も用意してくれたマツダ創業者家族というセーフティネットの存在（前提）があるわけで、失敗し放題いつでもリセットできる特殊な環境を抜きにして、ドヤ顔で「失敗しよう」と他人に鼓舞されてもなと…・もう一つ、これが一番残念だったのだけど、帯の「おりづるタワーはなぜあんなにも入場料が高いのか？」の理由だけを知りたくて同書を買ったが、（ネタバレになるので書かないが）その答えを求める人は期待しない方が良いと思う。もっと、ヒロシマやこの町だからこそ抱えるテーマやドラマがあるのかと思ったが…それはどこにでもある、いわゆる「ハコモノ」を作る時にはよく起こる、ありふれたハードルや葛藤にすぎない。結論としては、むしろ同書を書いたことで、オリヅルタワーに「余計な」「個人的な」バイアスを植えつけられたことで「オリヅルタワーの価値は下がった」と、個人的に思う。ヒロシマ出身・県外在住の人間としては、著者の気持ちはわかるし、未来志向であるのも賛成だけどそれならばもっと、大きな視野で「オリヅルタワー」を語って欲しかった。綺麗事である必要はもちろんないが、同書の見方によっては、故郷に「◯◯記念館」を立てる地元の金持ちの発想を聞かされているのと大差ない。著者も経済人である以上、商売でもビジネスでももちろん構わないが、少なくとも後付けでなく「あの場所」に、「ヒロシマ」と「広島」と「HIROSHIMA」のシンボルを、2045年のために作りたかったのであれば同書で訴えている以上の覚悟が必要だったと思うし（本文中に散見されるような、自分は戦後世代だからという「保険」をかけることなく）、その一方で、旧産業奨励館の役割を、今再びというアイデアはとても素敵だと思うし、社内や友人の周囲のアイデアだけでなく、公募とまでは言わないまでも、それこそ地元の将来を思うのであればこそ、１企業だけではなくJCの方々などこれからの広島を支えていく企業の方達の思いや未来志向のアイデアも盛り込んで欲しかった。仮に、そこに経営的な都合や地元のしがらみがあったとしても、そこをぶち破るほどの男だからこそ、その半生を同書で綴る意味が初めて生まれると思う。過去の少年時代の思い出話だけではなく。つまり、それができなかったことに、広島の将来を唄い上げながらも著者の「最後のエゴ」が見え隠れしている気がして、彼を知る県内の周囲の人であれば興味深い内容かもしれないが、少なくとも国内外含めて純粋に「オリヅルタワー」を登る人には、申し訳ないが必要のない情報ばかりだったので、帯で「〜なぜあんなにも入場料が高いのか」というようなコピーの入れ方は、マーケティングとしては正解でも、著者が訴えたい（と思われる）テーマと純度を考えると、やり方として少しどうかな…と個人的には思う。この社長（会長？）には少し興味を持っていただけに、残念だった。